読書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
先日書いた話で触れた本を読みました。今の AI がどんなに進歩しても「シンギュラリティ」は来ない、しかし確実に人間と競合して仕事を失う人が多数出てくるだろう、特に教科書をマトモに読むことができないままでは AI に代替されてしまう、という著者の危機感が伝わる本で、一気に読みました。
東大合格を目指す「東ロボくん」の研究を通じて、AI にとって「文章の読解」が難しいことがはっきりして、じゃあ人間の子どもはそれ出来てるの?という疑問から行われたリーディングスキルテスト。結果は、中学生どころか進学率100%の高校に通う高校生でも正答率は決して高くない、しかも間違え方が AI に似ている(!)というんですよね。それじゃ AI に勝てない、という。
いま小さな子どもを育ててる皆さんは、彼らが大人になる頃には特に AI の影響で社会が激変しているだろうという話をあちこちで耳にしていると思います。本書で詳しく紹介されている東ロボくんの成績は、それをリアルに想像させるものでした。
偏差値57.1。東大はダメだったけれど、一部の国公立大や難関私大にも届くレベルです。大学に進学する受験生の上位20%近い位置、つまり8割近くの子どもたちが負ける。なかなかの衝撃です。
じゃあそれ以上の学力をつけさせなきゃ、というよりも、AI に代替されない仕事ができる能力を身に着けさせることが大事なんでしょうね。僕も、将来息子には何か新しい価値を作り出すような仕事をしてほしいと常々思ってはいますが、どうすればいいのか…。
著者は、カギは読解力にあるといいます。マニュアルを正しく読むのにも必要だし、自学自習をしていくためにも必要、読解力が学力全体の基盤になっている、と。でも、詳しいアンケート調査をしてみても、読解力を向上させる因子はまだわからない、のだそう。なんだよー!
ところで、著者が憂慮していることがある、といいます。
私が最近、最も憂慮しているのは、ドリルをデジタル化して、項目反応理論を用いることで「それぞれの子の進度にあったドリルをAIが提供します!」と宣伝する塾が登場していることです。こんな能力を子どもたちに重点的に身につけさせることほど無意味なことはありません。問題を読まずにドリルをこなす能力が、最もAIに代替されやすいからです。
東ロボくんに散々「ドリル」をさせた私は自信を持って言います。読解力を身につけない限り、そこから先の成績は伸びません。読解力のある生徒が受験勉強に精を出し始めると、読解力のない子の相対的な成績は、むしろ下がる一方になります。
問題文に出てくる数字を使ってとりあえずなんらかの式に入れて「当てようと」してしまう。なぜそんなことをしてしまうのか?フレームが決まっているドリルでは、それが最も効率の良い解き方だったからです。フレームを決めざるを得ないデジタル教材の最大の欠点はここにあります。フレームが決まっていると、子どもは教える側が期待しているのとは別の方法で、そのフレームのときだけ発揮できる妙なスキルだけを偏って身につけてしまうのです。
このあたりの議論は、どちらかというと著者の「意見」ではありますが、よく言われる「高学年での伸び悩み」とかに通じるものがあるのかもしれませんね。
いまの息子の勉強では、とりあえず理解優先で速度は後回しにしています。「新しく買ったドリル、楽しいみたいでスラスラ解いてしまいました!」みたいな記事を書く日はたぶんやってこないんだろうなあ(笑)。
でもそれでいいんです。反射的に「正解」に飛びつくようなクセをつけないように、そして論理やものごとをイメージする力を養うようにしたい。どうするのがいいかは試行錯誤ですが、まずそれぞれの時点での学習の達成目標を間違えないようにしないといけないな、と思います。
読解力向上の処方箋がないのはガッカリですが(仕方ないですが)、とても示唆の多い本でした。